【深】独り言多めな読書感想文

⭐️1つの作品に対して記事が複数に渡るものを収録⭐️

朝井リョウさん『正欲』映画感想文(後編)


【3、言うても王道は変わらんぜ?】

 映画の主張としてマイノリティ側からの展開だから、どうしても捻くれて見えがちなのはわかる気がするのだが、いかんせんちょっと偏りが大きいカナというのも印象として残る。
「将来のことを考えて、多少無理にでも学校に行かせた方がいい」という啓喜の主張は王道。決して間違ってはいない。それは私個人が啓喜と似たような脳のつくりをしているのと、イジメられていた側の実体験に基づく(本作では〈学校に行かなくなった〉だけで原因が明記されていないため、一概にイジメによる登校拒否でない可能性はある)
 イジメと一言に言っても、間違いなく逃げた方がいい類から、「それくらいなら何とか頑張れ」という類まで幅広く、そこに周囲の経済、風土、家庭環境、それに個人の性質、いろんな要素が入ってくるから、一概には言えないのは前提として、だからといって小学生から学校に行かないというのは、私も「ちょっと」だった。

 作中、右近と由美と泰希がひとかたまりになっている場面、実際啓喜と3人が直接向き合った訳ではないのだが、同作者『スペードの3』の一節を彷彿とさせた。参考までに紹介する。

 

〈ずるい、と美知代は思った。容姿に恵まれていない、純粋なことだけが取り柄のような弱気な人物が、怯えながらも仲間を増やし顔を上げて立ち向かうだなんて、まるでその中に真実があるみたいだ〉

 

 立場の弱い人物、例えば子供。けれど昨今の子供は少子化の煽りを受けて、ベース「死なないこと」を起点としているために、全体的に過保護な印象がある。自死、他殺を避け、とにかく生き続けることを大前提として、そのために周りがせっせと動く。生きることをお願いする世の中なのだ。現代はいろんな生き方がある、学校に縛られなくてもいい、勉強はどこでもできる、それより自分の興味のある分野を伸ばした方が。どうぞご自由に。
 けれども先にも述べたとおり、根本人は生物として何も変わっていない。だから小手先を変えたところで、いつかは同じ問題にぶつかる。その時成熟して対応できればいいのだが、一度逃げた「苦手意識」と、その時何かしら対処して失敗していれば別のやり方を考えたかもしれない「指針ゼロ」は結構大きい。あとは「自分が自分さえ良ければいいと思って行動している」ことを自覚せずに行動することは、対人関係に軋轢を生みやすい。依存は良くないが、複数でなければ回せない仕事の方が利益を生みやすいのは事実。結局はどこまで行っても人なのだ。

 だからたまに相手を重んじるために堂々子供を叱りつける親を見ると、すごいなと思う。将来を見据えて、本当にその子にとっていいことを迷わず優先する。だから周りも重きを置く。「大丈夫」と言う。このコミュニケーションは、敬意を根にもつ。知らずその子は幸せを願われる。

 

【4、「あれ、桐生さんがやったの?」って私が言われたかった】

 あとは私にとって初見の役者さん達がよかった(もちろん吾郎ちゃんやガッキーも良かった)
 大也役の佐藤寛太さん、劇団EXILEなのね。知識ゼロの私にはそのダンスの良さは分からなかったけど、目がすごく印象的だった。公式サイトのコメントも大人。ピックアップされた恋愛ものの作品の画像より、こっちの方が「らしく」見えたのは、本業に近いからなのかしら。初見の戯言です。
 八重子役の東野絢香さん、役としてちゃんとキモかった(ベタ褒め)八重子は絶妙に、ちゃんとキモくなくちゃいけないの。これガチのかわいい子やってたらミスコン反対とかうるせえってなるからね。唾飛ばしながら主張するの、ああいいね、八重子だねえって見てた(ベタ褒め)

 

 最後に、佳道役の磯村勇斗さん、この人本当に何なの超かわいかった。原作そのままだった。たどたどしてるのとか、目合ってるのに合わない感じとか、きちんと線を引いてるのとかすごい佳道だった。佳道本人だった。喋り方といい、表情といい、空前絶後の佳道だった(いい加減にしろよ)
 だからこそパカって心を開いた時の「くる?」で死んだ(原作にこのセリフはない)すぐに「手を組みませんか?」って敬語で距離を取り直すのとかも絶妙すぎる。あれこそ、押せば引かれるから、押して引いてみる戦法だよ。やめろ。翻弄されるばかりだ尊い
 個人的には、あれ、ヤキモチからでしょうね、夏月が佳道家の窓ガラスぶち破るの。最初意味分かんなかったんだけど、佳道の「あれ、桐生さんがやったの?」で理解した。その後夏月がごめんなさいってベッドの上で土下座するんだけど、あのやりとりは羨ましいと思った。とんでもないことやらかして赦されるまでが1セット。佳道の聞き方一つで、そうだと白状しても赦されるのは分かった。盛大にやらかしても大丈夫だと思えるのは、相手の器量、人間性にも依るが、単純に安心する。
 朝井リョウさんの作品の中で最も好きな佳道を、見事演じ切って下さった磯村さんには、でっかい声でお礼を言います。ありがとう!!!!

 

【終わりに】

 いつまで上映するんだろう。
 この記事を読むのはもう観終わってる人がほとんどだと思うけど、もしまだ小説だけだったら是否観て欲しいな。原作を補填するような、やっぱり映像はすごいよ。